「瓶の中には女の子が入っている」
そう言ってほほえむおねえさんの裏側には、何かが隠されている気がしました。だけど、それを知ることはできませんでした。瓶の中にビールが注ぎ込まれたからです。ビールは女の子の足を浸して、膝を越え、タイツの内側まで染みこんできました。
女の子は瓶の内側に手を添えたまま、おねえさんを見つめました。おねえさんの瓶にはすでに頭までビールが注がれています。まぶたは閉じられ、長いまつげが羽を休めています。黒い髪がふわりと静止して、横顔を覆い隠しました。
私もあんな風になりたい、と女の子は思いました。ビールは女の子の肩まで達していて、四肢はもう動きません。そうして女の子は暗闇へ落ちていったのです。
……
次に女の子が目を覚ましたのは、乾いたビール瓶の中でした。とある台所の片隅にその瓶は置かれていました。
隣には緑のワインボトルがあって、フランス人形のような少女がけだるげに瓶の内側にもたれています。少女は女の子が目を覚ましたことに気付くと、ちらりと横目を向けました。
「ねえ、あんた元気?」
突然話しかけられたので、ビール瓶の女の子はびっくりしてしまいました。あまりにもびっくりしたので、思わず飛び上がって瓶のくびれに頭をぶつけてしまったくらいです。
瓶は壊れたヴィブラフォンのような音を立てて揺れました。ワインボトルの少女はけらけらと笑いました。
「そんなに笑わなくてもいいのに……」
「ごーめんごめん」
ひとしきり笑ったのち、ワインボトルの少女は二カッと白い歯を見せました。見た目はおしとやかな子かと思ったけれど、ずいぶんおてんばなんだなあと、ビール瓶の子は思いました。
「ちょっと待って。名前は言わないで」
「どうして?」
「私たちずっとこんなところに放置されてて退屈じゃない? せっかく新しい人が来たんだから、名前でも当てて退屈を紛らわせようかなって思ったわけ」
ははあ、とよく分かったような分からないような返事をして、ビール瓶の女の子は辺りを見回しました。
褐色のガラスを通してみる景色は、いつだってセピアに見えます。セピアなフローリング、セピアな食器棚、セピアなテーブル、そのどれもが女の子にとっては目新しいものでしたが、ワインボトルの子にとっては見飽きたものばかりでした。
「私、自分の名前なんて知らないよ」
「そうなの?」
女の子はうなずきます。産まれてすぐにビール漬けにされてしまったので、名前なんて聞いたこともありません。
ワインボトルの子は目を輝かせました。
「じゃあ、あたしが名前をつけてあげる!」
少女はビール瓶をじろじろと観察し始めました。あまりにもずっと見つめられている物だから、ビール瓶の女の子はなんだか恥ずかしくなって、視線をガラスに向けました。
濃い褐色のガラスは、女の子を外の世界から隔離してくれます。けれど、ワインボトルの子の視線は躊躇なく内側に入り込んできます。
「あさひ?」
ワインボトルの子の口から、聞き慣れない言葉が飛び出しました。
「ラベルに書いてあるよ。だからあさひでいいんじゃない? いいね。気に入ったよ」
ワインボトルの子は勝手に納得しています。どうやら当の本人に選ばせる気はさらさらないようです。とはいえ女の子も、あさひと呼ばれて悪い気はしませんでした。
「あたしはシャルドネ。よろしくね、あさひちゃん」
……
ずしん、ずしんという衝撃と共に、あさひたちの十倍はあろうかという大きな人間が台所を横切ります。巨人です。
毎日、朝と夕方になると、巨人は決まって台所へやってきて、あさひたちの側をうろつきました。
あさひはすっかり怖くなってしまってしまいました。瓶の底に顔を伏せて、巨人から目を背けました。そうして文字通り手も足も出さずに、災難が過ぎるのを待つのです。
昼になると、巨人たちはめっきり台所に寄りつかなくなります。けれど、時折巨人のことを思い出すだけで、あさひは憂鬱になりました。
シャルドネはそんなあさひの様子を、面白そうに眺めていました。でもしばらくすると、恐がり続けるあさひがさすがに気の毒に思え始めて、
「そんなにおびえなくてもいいのに」
シャルドネはあきれたふうにあさひを諭しました。
「シャルドネは怖くないの?」
「だってさあ、あいつら私たちのことなんて全然眼中にないみたいだよ」
あさひの疑り深いまなざしを受けて、シャルドネは付け足します。
「もし巨人が襲いかかってきたとしても、私たちが瓶の中にいる限りは安心だよ。直接手を触れられないんだから」
シャルドネは拳で軽く瓶を叩きました。
「もしもこの瓶がなかったら、どうなるの?」
「あたしたちは、そんなに強くないからね」
結局、シャルドネだって自分とそんなに変わらない。その事実に、あさひはなぜか救われた気がしました。
その日の夕方、あさひはほんの少しだけ顔を上げて、巨人たちの動きを目で追ってみました。なるほど確かに、巨人はテーブルの上や冷蔵庫の方ばかりを見ていて、あさひたちのいる方には見向きもしません。
「巨人が気にしてるのは、たぶんあの扉の中で眠ってる瓶たちの方なんだ」
シャルドネの指す方向には、灰色の冷蔵庫がそびえていました。
「じゃあ、あそこまで辿り着けば、私たちの仲間が増えるってこと?」
「うん」
もしも、あさひたちが巨人に対抗できるような力を持っていて、世界中の瓶の中から女の子を救い出すことができたとしたら、どれだけ楽しくなることか。それはあさひの夢でした。決して叶わないことは分かっています。
「でも、そんな風に考えてちゃうよね」とシャルドネに尋ねると、彼女はフフンと不思議な笑みを浮かべました。
「あさひは知らないかも知れないけど、あたし、魔法が使えるんだよ」
シャルドネは目を閉じました。口を結んで、両手に力を込めます。そうしてから、自分の肩の横辺りを指差しました。
「ほら!ここにエンゼルフィッシュが見えない?」
「へ?」
あさひはあきれました。何を始めるのかと思えば、シャルドネの瓶はいつもと何も変わりありません。
シャルドネは慌てました。
「分かった。じゃあ、今度はもっとすごいやつを出すから」
あさひはまたシャルドネが新しい遊びを思いついたのかと思いました。シャルドネは退屈すると、しばしば前振りもなくあさひをその遊びに巻き込むのです。
——この遊びに付き合うのは、三十分が限度かな。
そう割り切って再びシャルドネの瓶に目をやった時、思いがけず声が上がりました。今、あさひの目にもその魔法がはっきりと映し出されていました。
瓶の中を無数の熱帯魚が優雅に泳いでいます。鮮やかな原色の魚、美しいグラデーションの魚、まだら模様の魚。それらが狭い瓶の中を泳ぎ回ると、まるでシャルドネが色彩の渦になったみたいです。
「たくさんいるね」
「うん!」
シャルドネは嬉しそうに体を揺らしました。驚いた熱帯魚が、一斉に方向を変えて散りました。日光を反射した鱗はきらきらと輝いて、一つとして同じ色の点はありません。
「私の瓶にも一匹ぐらい出せないかな?」
「それは無理みたい」
シャルドネは残念そうに首を横に振りました。
「今までも何度かあさひをびっくりさせようと思って、夜中とかに試したんだけど、ダメだった」
ふう、と息を吐いてシャルドネは肩を降ろしました。たちまち魚群は煙のようにかき消えて、ガラスにはいつものフローリングが映り込みます。
「結局、私たちは瓶の外には何もできない。そういうものなんだよ、きっと」
あさひはシャルドネの言いたいことが、はっきりと分かりました。
どれだけ言葉を交わしても、シャルドネとあさひの間には二枚のガラスがあります。今まではそれもしかたないと思っていたけれど、魔法はその境目をはっきりさせてしまいました。
「私たちって巨人から身を守る代わりに、孤独になったのかな」
「かもね」
シャルドネは腕を組みました。二人で一緒に魚に触れられたら、どれだけ楽しかったことでしょう。一瞬ですが、彼女もまたそんな夢を抱いてしまったのです。
「ねえ、あさひの一番好きな魚を教えて」
「金魚かな」
「オッケー」
シャルドネの背後から無数の金魚が現れて、ひらひらと瓶の中を舞いました。シャルドネの笑顔が戻ったことに、あさひは胸を撫で下ろしました。
「あさひはなんか魔法使えないの?」
あさひの記憶の中で、おねえさんが何かを言っていました。だけどその言葉はもやのように漂って、輪郭を結ばず消えてしまいました。
「やってみる」
あさひはシャルドネがやっていたのと同じように、口をきつく結びました。瓶の中に金魚を思い描きながら、ゆっくりと目を閉じます。
それから数分が経ちました。シャルドネはあくびを一つもらしました。
「やっぱ、あさひには魔法は使えないのかもね」
「なんで?」
「悪い意味じゃないって。あさひは特別だから」
あさひは煙に巻かれたような気がして、思わず顔をしかめました。
……
夕方になると、いつもの巨人が現れます。
普段はあさひたちに目もくれない巨人ですが、その日は違いました。巨人は両手であさひたちの入った瓶を掴むと、そのまま屋外へ持ち出しました。そして二人の瓶をコンクリートの上に置くと、そのまま家に帰ってしまいました。
あさひは辺りを見回します。右も左もコンクリートです。唯一上面だけはネットで覆われていましたが、台所以上に退屈な場所に来てしまったことは想像に難くありませんでした。
白んだ月が東の空に浮かんでいました。冷えた空気が瓶の内側に入り込んで、あさひたちの体を凍えさせました。
「私たち、これからどうなるのかなあ」
「リサイクルされるんだよ」
シャルドネはぼそりとあさひに告げました。
翌日、別の巨人が小さな茶瓶を持って来て、あさひたちの隣に置きました。
最初、その茶瓶の中には、ヨモギが入っているように見えました。けれども、茶瓶が置かれてしばらくすると、そのヨモギはみるみるうちに枯れていきました。あさひとシャルドネが驚いたのも、無理はありません。
枯れ葉の陰から小さな女の子がひょっこり顔を出しました。
本当に小さな女の子でした。背丈はあさひやシャルドネの半分もありません。彼女の茶色の小瓶のてっぺんには、金属とプラスチックの円盤が重なり合った、複雑な物がくっついています。
女の子は水に晒されたばかりのようで、服も髪もしっとりと垂れ下がっていました。けれども、それらの水分はたちまち彼はの中に吸い込まれていきました。
髪はあさひのショートより少し短かったのですが、すぐに追いつきそうでした。なんだか瓶の色もあさひと似ているし、シャルドネは仲間はずれになったような気がしました。
「オロナミンだね」
「うん、私もそう思う」
三人目の女の子、オロナミンはきょとんとした瞳で二人を見上げました。二人が名前のことを話していると理解するのに、しばらく時間がかかりました。
あさひはオロナミンに尋ねました。
「さっきの植物って、どうやって出したの?」
オロナミンの魔法は、あさひにとって希望でした。もしかすると、魔法はみんなが持っている力で、コツさえ掴めばあさひにも使えるのかもしれません。
「えっと、巨人に掴まれたとき私とても怖くって、そのとき出たんです」
「突然できたの?」
「はい。なんとなく出ました」
「あっ、そう……」
オロナミンの言葉は何の助けにもなりませんでした。シャルドネはおなかを抱えて笑いました。
でも、一つだけ分かったことがあります。魔法は一人ずつ違う能力で、使う人によって出せるものの種類は異なるのです。だから、あさひが金魚を出そうと頑張っても無駄なのです。
「私も魔法を使えるようになりたい」
あさひはシャルドネに懇願しました。
「そんなに?」
シャルドネには、あさひの気持ちが分かりません。魔法なんて瓶の見かけをちょっと変えるだけで、そんなに意味のあるものだとは思えなかったからです。
でも、あさひの目にはそれがとても魅力的に映りました。
「私にはまだチャンスがあると思う」
オロナミンとシャルドネは、思わず目を見合わせました。シャルドネはさじを投げました。
「あさひは特別だから、できるかもしれない。やってみなよ。あさひの魔法」
あさひはいつもシャルドネがやるように、目を閉じて、両腕に力を込めます。まぶたの裏にイメージします。
私の、魔法。
その時、ゴトリと音を立てて、緑のワインボトルが倒れました。シャルドネはどこにもいません。茶色の小瓶も空でした。
風が二人の瓶をトゥートゥーと鳴らしました。
あさひは恐ろしいことに気付きました。もしかして、そんなはずはないのだけれど、あさひは自分の思いつきに愕然としました。
もしも、あさひの魔法が、とてもとても大きなものだったとしたら。シャルドネとオロナミン、この二人があさひの魔法の効果だとしたら。そして、魔法を解除した時、二人の存在が消えてしまうとしたら。
あさひはずっと魔法にかけられていました。最初から、瓶の中の少女なんて幻想だったのです。誰がそんな魔法をかけたのかは分かりません。でも、そんな直感がしたのです。
「なに?どうかした?」
いつもの声が、あさひを呼び覚ましました。シャルドネとオロナミンが、不安そうにあさひの顔を覗き込んでいました。
「なんでもない」
あさひは首を振って、無理に笑顔を作りました。胸に手を当てて深呼吸すると、鼓動もしだいに収まってきました。
「たぶん、私に魔法は扱いきれないと思う」
あさひはそう宣言することにしたのです。
……
夜は静かに明けました。薄い雲が朝日を遮って、ぼんやりとした光を蓄えていました。
「いよいよだね」
「うん」
シャルドネとオロナミンがうなずくのを、あさひは不思議そうに眺めていました。
「何があるの?」
あさひが尋ねると、シャルドネはびっくりして振り返りました。
「しょうがないですよ」
オロナミンがため息混じりにつぶやきますが、あさひには何のことかさっぱり分かりません。
「今日はごみ収集の日だけど、あさひさんにはあんまり関係ないんじゃないですか?」
あさひは当惑しました。
「私たち普通の瓶は、回収されて、溶鉱炉に入れて融かされます。もしくは粉々に砕かれて、建築材料にされてしまう」
オロナミンは、自分の瓶の壁面に手をかけます。
「でも、ビール瓶は特別です。ビール瓶はそのまま工場に帰って再利用されます。私たちとは違うんです」
「それが、今日?」
オロナミンはうなずきました。あさひには、オロナミンもシャルドネもセピアな別世界にいるように感じられました。
「シャルドネも知ってたの?」
「うん」
シャルドネは目線を逸らしました。
「いや、別に気にしなくたっていいじゃん。また次の台所で新しい瓶と友だちになったとして、そんときに『ああ、シャルドネってやつがいたねー』って、話題にすればいいじゃん」
シャルドネはここまで言って、ふと自分の口の悪さを思い出し、とっさに付け足します。
「いや、別に嫌みとかじゃあないよ。私たちが努力してもビール瓶になれないみたいに、あさひもワインボトルになれるわけじゃないでしょ。それはしかたないことだよ」
シャルドネがずっと心の中に抱えていた諦めを、あさひはようやく理解しました。どうして瓶の外に出たがらないんだろう。魔法にそんなに興味がないんだろう。それはずっと不思議でしたが、今日になってようやくその気持ちが分かりました。
普通の瓶の一生なんて、そんなに長いものではないのです。瓶の外に出ようとするよりも、今を精一杯楽しむ方が、よっぽど現実的なのです。
シャルドネの瓶の中に、金魚が一匹現れました。羽衣のようにひらひらと舞うその大きなヒレが、シャルドネの顔を透かして赤に染め上げました。
「シャルドネはずるい。そんなふうに魔法を使えるんだから」
それ以上、あさひは何も言えなくなってしまいました。さよならは最後の瞬間にとっておきたくて、代わりに適当な何かで会話の空白を埋めたいけれど、その何かは決して見つかりませんでした。
急に日差しが強くなりました。朝日が昇って、ちょうど雲の隙間に至ったのです。
コンクリートの前にごみ収集車が停まりました。車から軍手姿の巨人が二人降りて、彼女たちの入った瓶を無造作に握りました。その手つきはあまりにも乱雑だったので、あさひは思わず目を閉じました。
三人の瓶はごみ収集車の中へ投げ込まれました。がしゃんと嫌な音が響きました。
目を開けたときには、シャルドネとオロナミンの瓶はあさひの足元で砕けていました。あさひはすぐ気付きました。自分の瓶が落ちた衝撃で、二人の瓶が割れてしまったことに。
「そういうのって、よくあることだよ。他にも割れちゃった子はたくさんいる」
近くに転がっていた別の瓶から、知らない女の子が諭してきます。
「しかたないよ。あなたのせいじゃない」
ただ死期が早まっただけ、と言えばそれまでだけど。あさひには自分のやったことの善悪が分かりませんでした。けれども確かな後悔が、心臓をぎゅっと握りました。身の回りで何か不幸な出来事が起こったとしても、茶瓶の内側から眺めていることしかできない。それは昔からそうでしたが、この時ばかりは、巨人に翻弄されるしかない自分が情けなくなりました。
収集車の中に差し込む朝日が、砕けたガラスの破片をきらきらと照らしています。あさひの瓶の下に、たくさんの瓶が積まれています。生きている子もいます。血を流して死んでいる子もいます。
エンジンの振動と共に、瓶の山はがちゃがちゃと崩れました。ガラス瓶たちの上に黒い影が落ちていきます。黒い影はあさひの瓶をも覆い隠します。そうして、どこまでも影を落としてから、収集車はリサイクルセンターへ向けて出発しました。
……
あさひは瓶の外を見やりました。工場には数えきれないくらいのビール瓶が並べられていました。どの瓶も中身は空っぽで、女の子の姿なんて影も形もありません。
あの日以来、あさひの目には誰も映らなくなってしまいました。まるで瓶の中の少女なんて、初めから存在しなかったみたいに、すべての瓶は寂しい空気で満たされていました。
魔法。それだけが頼みの綱でしたが、あさひには未だにどうやって魔法を使うのか分かりませんでした。何度挑戦してもうまくいかないので、ほとんど諦めかけていました。
「結局、瓶の外からは出られないのかな」
ビール瓶としての命を一周したことで、なんだか無性に懐かしい気分になりました。できることなら、もう一度、シャルドネの色鮮やかな熱帯魚を見たい。瓶があるのに一匹も魚が泳いでいないなんて、なんだかとても物足りない気がします。
本当は、ただ見ているだけでよかったのです。たとえ自分で体験できなかったとしても、金魚じゃなかったとしても、あさひはシャルドネの魔法が大好きでした。
本当は、他人の瓶かどうかなんて関係ないのです。瓶の外で暮らす巨人にとって全く意味を成さない話だったとしても、瓶の中の空間がなぜか虚しく感じられるのです。
ふと、あさひは隣のビール瓶に目を惹き付けられました。オロナミンと同じ色をした、真新しいビール瓶。
それが引き金でした。
真新しいビール瓶の中にショートヘアの女の子が現れました。あさひよりもほんの少し背の低い、小柄な女の子。
続いて周りの瓶にも次々に女の子がよみがえります。工場が怖くて震えている子もいれば、おしゃべりを続けている子もいます。
いや、本当は現れたわけじゃない。あさひには分かりました。みんな最初からそこいたのが、見えるようになっただけでした。
「そうか。魔法を使うって、こういうことだったんだ」
あさひは愛おしそうに、女の子に話しかけました。
「当たり前の言葉が、魔法の呪文だったんだ」
あさひは産まれたばかりのこの少女にも、魔法をかけてあげることにします。
「瓶の中には女の子が入っている」
アサヒの瓶に黄金色のビールが注がれていきます。